十年後のフリーライフコンサルティング(理想のFLC) 2010年1月23日現在
−ピッ!−
アラームを解除する音が短く鳴る。
今日も、目覚まし時計が鳴る1分前に起床。
城之内は、ここ数ヶ月、起きることを苦に思うことがなかった。
また、ワクワクする1日が始まるんだ。
心の中で、「よっしゃー」と叫ぶと、ベッドから勢いよく飛び出した。
30分で身支度を整え、家を出た。
事務所へは、徒歩10分。近くのコンビニに寄り、朝食を買う。
店員より先に、「ありがとうございます!」と言って、店を後にする。
城之内は、 "ありがとう" を大事にしていた。誰かに教えられたわけではないのだが、会社の先輩たちがいつも多用しているのを見ていたら、いつのまにか自然と "ありがとう" が出るようになったのだ。
しばらくすると、事務所の屋根が見えてきた。
古民家を改装した事務所の大きな茅葺き(かやぶき)屋根には、これまた大きくオレンジのペイントで 『(笑)』 と描かれた看板が掲げられている。
「あいかわらず、くだらない…」城之内は、ニヤリと笑った。
会社の前の通りでは、近所のおばあさんが掃除をしていた。城之内は、「ありがとうございます!手伝います!」と元気よく声をかけた。
おばあさんは、「今日も、元気だねぇ。あなた達に会うと自然と笑顔になるよ」と返してくれた。
城之内は、うれしくなって、「ありがとうございます!」と満面の笑顔で返事をし、おばあさんの手伝いを始めた。
掃除が終わり、入り口に着くと、すでに鍵が開いていた。
「あっ、しまった。先をこされた。」
新入社員である城之内は、誰よりも早く出社することを日課にしていた。
事務所に入ると、みんなが僕に気がつき、「おはよう」と言って握手をしてくる。
「すみません、遅くなって。」
「いやいや、僕たちも今来たところだよ。」
今日は、エンタメ事業部のよしやさんの誕生日なのだ。先輩をビックリさせるため、大勢の人が早く来ている。
城之内は、一つの着ぐるみを手に取って、「僕は、これを着ればいいですね?」と言った。それは、よしやさんが描いた漫画のキャラクターの着ぐるみだった。
そして、9時30分によしやさんは出社して来た。
事務所の扉を開けると、そこは真っ暗。「えっ?」とよしやさんが声をあげた瞬間、僕らは動きだした。照明がつき、大きな音楽が流れ始める。そして、事務所の真ん中にある大きなスクリーンに僕らが作ったよしやさんの1年間の活動を収めた映像が写し出されたのである。
映像が終わって部屋が明るくなると、よしやさんは、「みんなありが・・・」と、感動して号泣していた(笑)
いちキャストの誕生日にここまでやる会社って・・・ 僕は、つくづくこの会社に入れたことを誇りに思った。
時計が、10時を回った頃、「おはようっ!」と、とんでもない大声をあげながら、部屋に入ってくる人物がいる。
株式会社フリーライフコンサルティングの名物代表、せいきゅん社長だ。この声を聞くと、氣合いが入る(笑)
みんなも負けじと大声で、「おはようございます!」と返した。
「さあ、今日も始めようか!」
せいきゅん社長の一言で、今日の担当のとみこさんが前に出る。
ツイてるパーティの始まりだ。
先輩から聞いたのだが、このおかしなタイトルがついたパーティ、実は、有志で始まったものらしい。
たった数人で始めたイベントが、「僕も!私も!」と、気付けば全員参加になってしまったという。
とみこさんがCDの再生ボタンを押すと、Kokuaの"Progress"が流れる。僕らはこの曲を聴くと、やる気に満ち溢れてしまうのだ。
「瞑想始めます。」とみこさんが落ち着いた口調で言うと、みんな、目をつむり自分の「ワクワクする夢」が実現したときのイメージを始める。
この会社のスタッフは全員が夢を持っている。しかも考えるだけでワクワクしてしまう夢なのだ。
ちなみに僕の夢は、この会社のキャストたちとアカデミー賞を受賞すること。レッドカーペットを歩く僕らを想像すると、どうしてもニヤけてしまう(笑)
瞑想の時間が終わると、次は、本氣のお辞儀だ。
「起立!」とみこさんの氣合いの入った声を合図に、みんな一斉に立ち上がる。そして「礼!」の一言で、全力でお辞儀をする。初めてこのお辞儀を見たとき、あまりの本気さに感動したのを覚えている。
「ご唱和お願いします・・・
我々の使命は、世界に笑顔を増やすことである!」とみこさんが大声で始めると、みんな後に続く。
我々の使命は、世界に笑顔を増やすことである!
そのために、どうでもいいこと、つまらないことも、おもしろくしよう!
一つでも多くの伝説を創ろう!
我々は、みんなが集まるストーリーを持つ会社を888社誕生させる!
そして、そのストーリーを誰よりも応援する!
爽快なほど、みんなピッタリと声が揃っている。
唱和が終わると、次はパーティの一番のお楽しみタイムだ。
「スーパーツイてる!!」とみこさんは、力いっぱい握り拳を掲げる。
みんなも続いて、「スーパーツイてる!!」と拳を掲げた。
「スーパー幸せ!」「みんな大好き!」「ツイてる!ツイてる!!」
リズムに乗せて、さまざまな言葉が交わされる。この時間は、担当者が好き勝手にセリフやポーズをアレンジできるのだ。みんなオリジナリティに溢れていて本当に楽しい時間だ。
実は、入社当初、城之内はこのツイてるパーティが苦手だった。
大声で「ツイてる!」なんて、なんだか恥ずかしくて、いつも隣の先輩の陰で、ごまかしながらやり過ごしていた。
誰もそれを責めることはなかったのだが、みんなが本気で「ツイてる!」と叫ぶ姿を毎日見ていると、いつしか恥ずかしがっている自分の方が恥ずかしく思うようになってきた。
この会社のキャストの本気は伝染する。僕は、これを ”本気の伝染病” と呼んでいる(笑)
パーティは、担当者から翌日の担当者の指名で幕を閉じる。
「では、明日のツイてるパーティの担当者は・・・」とみこさんが言うやいなや、「ハイ!」「ハイ!」「ハイ!」と大勢の声があがった。負けじと僕も「ハイ!」と前のめりに手をあげる。
「城之内君!」とみこさんが、僕を指さした。「よっしゃー!ありがとうございます!」
「よしっ!今日もツイてる!」僕は心の中で呟いた。
デスクに戻り、お客様からのメールをチェックしていると、1年先輩のみやびさんが帰ってきた。みやびさんは、お客様からのクレームを受けて、すぐに駆けつけていたのだ。
ホームページの問題は早々に解決させ、得意のモノマネをやってきたらしい。あちらの社長さんはそれを見て大爆笑したそうだ。そして、「ホームページに問題が起こって良かったよ。」と言ってくれたそうだ。
お昼近くになると、せいきゅん社長がやってきて、「そろそろ行こうか」と声をかけてきた。
今日は月初めのお参りの日だった。毎月、希望者を募って行くことになっている。結局ほぼ全員行くのだが(笑)
「いつもありがとうございます!」
お参りを済ませ、いつものラーメン屋にみんなで足を運ぶ。このラーメン屋に行きたいがために、お参りに来ている人もいるそうだ(笑)
しばらく歩いていると、みくさんが「あっ!みんな出番よ!」と叫んだ。みくさんの視線の先を見ると、ピザ屋さんの配達のバイクが転倒していた。
僕は、急いで駆けつけようとすると、既にバイクは起き上がっていた。みんな、恐ろしいほど反応が早い。どうやら、運転手さんにケガはないようだ。みんな、安心してラーメン屋に向かった。
事務所に帰ると、留守番役のえみこさんがなにやら興奮して叫んでいる。
「ねぇ、みんな!マサシくん、東大合格したんだって!」
マサシくんとは、うちのホームページにある "夢応援掲示板" に、自分の夢を書き込んでくれた高校生だ。先輩たちは、2年間彼を応援し続けていた。そのマサシ君が、ついに夢である東大の入試試験に合格したようだ。
えみこさんは、自分のことのように喜んでいた。
午後の作業に取りかかろうと机に向かうと、隣の席のせいこさんがうなっている。
「どうしたんですか?」と声をかけると、「う〜ん。なかなか良いホームページのデザインが浮かばないのよ…」と、頭を抱えてしまった。
すると、それを聞いていたあきはさんが、「気分転換にカフェにでも行ってきたらどうですか?」と提案した。
「そうね!そうする!ふたりともありがとう!」そう言うとせいこさんは、ノートパソコンを持って出かけて行った。
うちの会社は、いつどこで仕事をしてもいいのだ。
「机に向かっているだけではクリエイティブな仕事はできない!みんな外に行け!」という、せいきゅん社長の一言から始まった。しかも完全フレックスタイム制を導入しているので休みだって自由に決められる。
だから休日には、セミナーや学校に通い、自分の夢の実現に向けて思い思いに過ごしているのだ。
「城之内君、まだ帰らないのか?」やすとさんが声をかけてくれた。
時計の針は8時を回り、事務所には、すでにふたりしか残っていなかった。
この会社のキャスト達は、ほとんどの人が定時で帰ってしまう。1日8時間、神経を研ぎ澄ませて働くのだ。そして残りの時間は自分の夢の実現のために使う。
「もうこんな時間だったんですね。そろそろ帰ります。」そう言いながら、城之内は事務所のゴミ箱を片付け始めた。しかし、すぐにその必要性がないことに気付く。この事務所はいつもきれいだ。常に整理整頓ができていて、物を探した記憶がない。
ふと壁に飾られている一枚の色紙に目が留まった。
『株式会社フリーライフコンサルティングさんありがとう!』と中央に幼い字で書かれた、寄せ書きの色紙だ。そこには、城之内の名前もある。
「もう10年も経つんだな・・・」
城之内は、養護施設で育ったのだが、10年前に、ここの会社のキャストの方達にディズニーランドに連れて行ってもらったことがあった。
当時、城之内を担当したのが、このやすとであった。あのときの温かい気持ちが、今でも心地良い思い出として残っている。
「僕もこの想いを誰かに伝えたい!誰かを笑顔にしたい!」
あの頃からこの会社に入るのがひとつの夢になったのだった。
「懐かしいな。もう10年か」色紙を見つめる城之内にやすとが話しかけた。
「はい。本当に楽しい1日でした。」城之内は、照れくさそうに続けた。
「あの日、実は僕行きたくなかったんですよね。1日だけ一緒に過ごして、良いことしました!みたいな顔されるのが嫌で」
「そうかそうか(笑) 10年前、世界に笑顔を増やし隊プロジェクトを立ち上げたとき、確かにそういう声もあがっていたんだ。」
やすとは続ける。「でも、あの日を終えて、子供たちと大人たちの顔を見たら、これは続けていきたいなって思ったんだよ。」
「はい!僕もあの日行かなければ、今の自分はないですからね。」
ふたりは、しばらく想いにふけっていた。
「やすとさん、まだ帰らないんですか?」
「うん。これからお客様のところで打ち合わせなんだ。」
「そうなんですか。ツイてますね(笑)。では、僕はお先に…」
−プルルルルルルルル−
そのとき、事務所の電話が鳴った。城之内は受話器を取る。
「お電話ありがとうございます!フリーライフコンサルティング、城之内が笑顔でお応えします!」
しばらくの沈黙の後、城之内は平謝りを始めた。「大変申し訳ございま…」
途中で電話が切られてしまったようだ。
「どうした?」
後ろで、資料をまとめていたやすとが、城之内に声をかけた。
「はい…ホームページが表示されないみたいです。かなりお怒りでした…。」
「そうか…」やすとは、少し間を開けてから落ち着いた声で言った。「出番だな」
「はい!行って来ます!」城之内は、事務所を勢いよく飛び出した。
城之内は、大通りでタクシーを拾った。
「よし!まだ間に合う!こんなに早くタクシーに乗れるなんてツイてる!」
後部座席に乗り込み、ワクワクする気持ちを抑えながら考えた。
「やっと僕の出番だ!今日初めて仕事らしい仕事ができる!」
タクシーと電車を乗り継ぎ、数時間…城之内は、お客様の会社に到着した。
事務所の電気はまだ煌々と灯っていた。
インターホンを鳴らし、ドアの前できをつけの姿勢で待つ。
しばらくすると、いぶかしげな表情をした中年男性が出てきた。
「誰だ君は!?」
「はい!私、株式会社フリーライフコンサルティングの城之内と申します!この度は、ご迷惑をおかけし誠に申し訳ございませんでした!」
男性の顔は、驚きの表情に変わっていた。
城之内は、応接室に通された。
どうやら、先程の男性は社長だったようだ。
「君はいつもこうなのかい?」
社長の問いに城之内は、ハッキリと答えた。
「たまたま電話をとったのが僕だっただけです。誰でも同じことをします。」
「でも君は私の会社の担当ではないじゃないか」
「それは問題ではありません。お客様ですから。」
社長の顔は、さらに驚きの表情に変わっていた。
「それでは、早速取り掛からせていただきます。」
城之内は、パソコンに向かった。
「ホームページが表示されないんだ。」
社長が、城之内の後ろから声をかける。
「なるほど…」
城之内は、しばらく周辺を見回すと、抜けかかったLANケーブルを発見した。
「これで大丈夫ですよ!」
「たったそれだけ?」
「はい、ホームページもこの通り表示されています。」
城之内は、画面を見せながら答えた。
社長は、バツが悪そうな顔をして、「こんなことのためにわざわざ来させてしまって申し訳な…」
すると、城之内は、社長の言葉にかぶせるように言った。
「申し訳ございませんでした!私どもの責任で大変ご迷惑をおかけ致しました!」
「それでは、僕はこれで…」
「しかし、こんな時間では帰れないだろう?」
「大丈夫です。なんとかなりますから!」
そう言い、城之内はその場を立ち去った。
勢いよく帰ったはいいが、城之内の明日の予定には、早朝から大事な打ち合わせが入っていた。
「まずは報告」と、携帯電話を取り出すと、停車中の車から「城之内君!」という声が聞こえてきた。
よく見ると車の運転席には、せいきゅん社長が乗っていた。
「社長!何でこんなところに?」
「たまたま通りかかったら、城之内君が見えたんだよ。偶然ってスゴイね。」
「そんなわけないよ…」そう思ったが、それを声にはしなかった。
城之内の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
そして一言「お楽しみ様です!」と言った。
時計が7時を回った頃、ふたりはやっと事務所に到着した。
扉を開けると、なぜか既に全社員が出社している。
「えっ?」と城之内が驚くやいなや、事務所はみんなの声でいっぱいになった。
「お楽しみ様!」「よくやった!」「お帰りなさい!」「城之内君、カッコイイ!」
振り返ると、せいきゅん社長がニッコリと微笑んで言った。
「さあ、今日も始めようか!」