ヒーローズマーケティング戦隊
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(笑)
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10年後、フリーライフコンサルティングはこんな会社になっている

10年後のフリーライフコンサルティング(2011年3月10日現在)


「ピッ!」
アラームを解除する音が短く鳴る。今日も、目覚まし時計が鳴る1分前に起床した。ヴィセットはここ数ヶ月、起きることを苦に思うことがなかった。

「また、ワクワクする1日が始まるんだ」

心の中で、「よっしゃー」 と叫ぶと、ベッドから勢いよく飛び出した。そして30分で身支度を整え、今日も世界に笑顔を増やすために家を出た。

会社へは徒歩10分。近くのコンビニに寄り、朝食を買う。店員さんより先に、「ありがとうございます!」 と言って、店を後にした。ヴィセットは、ありがとう を大事にしていた。誰かに教えられたわけではないのだが、会社の先輩たちがいつも多用しているのを見ていたら、いつのまにか自然とありがとう≠ェ出るようになったのだ。

道をあるいていると、携帯電話が振動し始めた。電話の相手は森社長であった。森社長は静岡で社員100名をかかえ、レンタルオフィス事業を行っている。ヴィセットは、すごく仲良くさせてもらっているのだ。
「もしもし、ヴィセット?」
「はい」
「カンボジアに戻るんだって?」
「はい、そうなんです。カンボジア支店のマネージャーをやることになりました」
「そっか、それはおめでとう! 楽しみだな。近いうちにまた飲みに行こう」
「はい、ありがとうございます!」
「あっ、もう行かなきゃ。またかけるね」
「はい」
ヴィセットは、何度もお辞儀をしながら、電話を切った。
「相変わらず、忙しそうだな。もう、あれから4年か・・・」

しばらくすると、ヴィセットが勤務するフリーライフコンサルティングの事務所が見えてきた。お城の形をした事務所の屋根には、大きくオレンジで描かれた「(笑)」 という看板が掲げられている。そして、その看板を持っているのは、この会社のマスコット、「タメヲ」 の3メートル以上ある大きなフィギュアだ。

会社の前の通りでは、近所のおばあさんが掃除をしていた。ヴィセットは、「ありがとうございます!手伝います!」と元気よく声をかけた。
おばあさんは、「今日も、元気だねぇ。あなたたちに会うと自然と笑顔になるよ」 と言ってくれた。ヴィセットは、うれしくなって、「ありがとうございます!」 と満面の笑顔で返事をし、おばあさんの手伝いを始めた。

掃除が終わり、事務所の入り口に着くと、すでに鍵は開いていた。
「あっ、しまった!先をこされた」
ヴィセットは、誰よりも早く出社することを日課にしていたのだ。

事務所に入ると、みんながヴィセットに気がつき、「おはよう」 と言って握手やハグをしてくる。
「すみません、遅くなって」
「いやいや、オレたちも今来たところだよ」
今日は、えぽん事業部にいるヨシの誕生日なのだ。ヨシをビックリさせるため、大勢の人が早く来て準備をしている。ヴィセットは、一つの着ぐるみを手に取って、「僕は、これを着ればいいですね?」 と言った。それは、ヨシが描いたキャラクターの着ぐるみだった。

そして、9時30分にヨシは出社して来た。ヨシがドアを開けると、事務所のなかは真っ暗。
「えっ?」 とヨシが声をあげた瞬間、ヴィセットたちは動きだした。照明がつき、大きな音楽が流れ始める。そして、事務所の真ん中にある大きなスクリーンが、ゆっくりと天井から現れてきて、そこにはヨシの1年間の活動を収めた映像が写し出されたのである。

映像が終わって部屋が明るくなると、ヨシは、「みんなありがっ・・・」 と、感動して泣いていた。いちキャストの誕生日にここまでやる会社って・・・ ヴィセットは、つくづくこの会社に入れたことを誇りに思った。

時計が午前10時を回った頃、「うぃーーーーーすっ!」 と、とんでもない大声をあげながら、部屋に入ってくる人物がいた。フリーライフコンサルティングの代表、せいきゅんだ。この声を聞くと、なぜか気合いが入る。みんなも負けじと大声で、「おはようございます!」 と返した。そして、せいきゅんは一人ひとりと握手やハグをして、事務所内を一周する。まるで政治家のようだ。

この会社では、全員ニックネームで呼び合うのがルールだ。せいきゅんも社長なのに、みんなから「せいきゅん」 と呼ばれている。ヴィセットは、これが日本の風習なのかと最初は思っていたが、この会社が変わっているだけということに最近気がついたらしい・・・

ヴィセットはデスクに戻り、お客様からのメールをチェックしていると、1年先輩の彩が帰ってきた。彩は、お客様からのクレームを受けて、すぐに現場に駆けつけていたのだ。彩はホームページの問題は早々に解決させ、得意のモノマネをやってきたらしい。相手の社長さんはそれを見て大爆笑し、「ホームページに問題が起こって良かったよ」 と言ってくれたそうだ。

お昼近くになると、せいきゅんがやってきて、「そろそろ行こうか」 とみんなに声をかけた。今日は月初め恒例の行事、神社への参拝の日だ。神社への参拝は、希望者を募って毎月行くことになっている。

神社について、ヴィセットは「いつもありがとうございます」 と、しっかりお参りをした。ヴィセットは、この会社に入ってから、何かに感謝する機会がものすごく増えた。みんなお参りが終わると、いつものラーメン屋に向う。このラーメン屋に行きたいがために、お参りに来ている人もいるのだ。

しばらく歩いていると、恵美が「あっ!みんな出番よ!」 と叫んだ。恵美の視線の先を見ると、ピザ屋さんの配達のバイクが転倒していた。ヴィセットは急いで駆けつけたが、既にバイクは起き上がっていた。この会社のキャストは、恐ろしいほど反応が早い。どうやら、運転手さんにケガはないようだ。みんな安心して、またラーメン屋に向かった。

事務所に帰ると、留守番役のエリがなにやら興奮して叫んでいる。
「ねぇ、みんな!マサシくん、東大合格したんだって!」
マサシくんとは、この会社のホームページにある "夢応援掲示板" に、自分の夢を書き込んでくれた高校生だ。この会社のキャストたちは、2年間彼を応援し続けていた。そのマサシくんが、ついに夢である東大の入学試験に合格したようだ。エリは、自分のことのように喜んでいた。


午後、ヴィセットが仕事をしていると、隣の席のキヨコがうなりはじめた。「どうしたんですか?」 と声をかけると、「う〜ん。なかなかいいホームページのデザインが浮かばないのよ・・・」 と、頭を抱えていた。
すると、それを聞いていたヨシが、「気分転換にカフェにでも行ってきたらどうですか?」 と提案した。「そうね!そうする!二人ともありがとう!」 と言うと、キヨコはノートパソコンを持って出かけて行った。この会社は、いつどこで仕事をしてもいいのだ。

この勤務形態は、「机に向かっているだけではクリエイティブな仕事はできない!」 というせいきゅんの一言から始まった。しかもこの会社は完全フレックスタイム制を導入していて、休みも自由に設定できるのだ。だから、平日にライブに行ったり、学校に通ったり、区役所に行ったりと、それぞれがそれぞれの都合に合わせて、働いている。

こうやって、この会社の一日は過ぎていくのだ。



「ヴィセット、まだ帰らないの?」 ヤスが声をかけたのは、午後8時を回っているころだった。事務所には、すでにヴィセットとヤスの二人しか残っていない。この会社のキャストは、ほとんどの人が定時で帰ってしまう。1日8時間、神経を研ぎ澄ませて働き、残りの時間は自分の夢の実現のためや、趣味、家族と過ごすために使う。

「もうこんな時間だったんですね。そろそろ帰ります」 そう言いながら、ヴィセットは事務所のゴミ箱を片付け始めた。しかし、すぐにその必要性がないことに気づく。この事務所はいつもきれいだ。常に整理整頓ができていて、物を探した記憶がない。

ふと壁に飾られている大きな写真に目がとまった。そこには、ヴィセットも映っている。 「もう10年も経つんだな・・・」 写真を見つめるヴィセットにヤスが話しかけた。
「はい。本当に楽しい1日でした」 ヴィセットは、照れくさそうに笑った。

ヴィセットは、カンボジアの孤児院で育った。父親は戦争でなくなり、母親は農作業中に地雷を踏んで亡くなってしまったのだ。10年前に、この会社が主催したイベントで日本に来ることができた。そして、この会社のキャストたちとディズニーランドに行って遊んだのだ。
当時、ヴィセットと一緒にディズニーランドを回ったのが、このヤスであった。あのときの温かい気持ちが、今でも心地良い思い出として残っている。まさか、その後この会社で働くことになるとは、当時思いもしなかった・・・。

カンボジアの孤児院にいるとき、ヴィセットは、ただ生きていくことに必死だった。仕事を得るために英語も日本語も中国語も、朝から晩まで勉強した。当時はよく、「なぜこんなにカンボジアは貧しいのだろうか」と考えていた。そして、カンボジアがもっと豊かになるためには、カンボジアからすべてを奪った先進国の人たちが、もっともっと寄付をしなくてはいけないとも思っていた。

結局、ヴィセットは与えられることに慣れていたのだ。ボランティアの人たちは、ヴィセットが何もしなくても与えてくれる。しかし、その代わり、ヴィセットたちは豊かになることを否定された。ずっと支援をしてもらうためには、ずっと貧乏でいなければいけないのだ。豊かになった瞬間に寄付はなくなる。

ヴィセットは、結局寄付だけに頼っていては、自分もカンボジアも、何も変わらないということに気がついた。そう気づかせてくれたのは、カンボジアに住んでヴィセットたちのサポートをしてくれている日本人のKengoという男だった。Kengoは「君たちも、いつかある日、ポイッとカンボジア社会の荒波に放り出される。そこでは、黙っていても誰も何も与えてくれない。自分たちの力で、自分たちのビジネスをしなければいけないんだ。そうしなければ、君たちもカンボジアも、経済的な豊かさを手に入れることはできない」 と言っていた。

そして、そこから数年がたち、ヴィセットが社会にでなければいけない年齢になったとき、この会社が日本で採用するカンボジア人を募集していたのだ。ヴィセットはこれに運よく選ばれ、5年前にこの会社に来たのだ。今では、この会社の一員として慣れたが、5年前に来た時は、本当に辛かった。

当時、孤児院で日本語を勉強していたとはいえ、日本人と同じように日本語でコミュニケーションは取れなかった。また、カンボジア人ということに、大きなコンプレックスもあった。日本では、「日本人ではない」 ということは大きな障害になる。クライアントは私が「日本人ではない」 ということだけで、どうやら不安なようだった。そして、せっかく任せてもらった仕事も、なかなか思うようにできなかった。そうしているうちに、ヴィセットは完全に自信を喪失してしまったのだ。

ヴィセットは何に対しても率先してやれなくなり、常に周りを見て、みんながやったあとに、そうっと自分もやるようなことをしていた。入社してからちょうど1年、ヴィセットはもうカンボジアに帰りたいと思っていた。

そんな風に、ヴィセットが完全に自信を失っていたとき、ある事件が起きた。それは今日と同じように、ヴィセットとヤスしかいない夜のオフィスの出来事だった。



「プルルルルルルルル」
「お電話ありがとうございます。フリーライフコンサルティング、ヴィセットが笑顔でお応えします」 下手な役者が台詞を読んでいるような、感情のない声でヴィセットは受話器をとった。

「すみません、玉置はすでに帰宅してしまいました」 そう言ったあと、ヴィセットは「すみません、すみません」 と平謝りを始めた。
「いや、そんなこと・・・。あっ」 途中で電話が切られてしまったようだ。
「どうした?」 後ろで、資料をまとめていたヤスが、ヴィセットに声をかけた。「森社長からで、『会社が倒産する・・・ お前らのせいだ。どうにかしろ!』 とかなりお怒りのようでした・・・」
「何!? どういうこと?」 ヤスはビックリして聞いた。「いや、わかりません」 ヴィセットもまったく意味がわからなかった。森社長は「取引先が倒産してしまい、売掛金が回収できない」 というようなことを言っていた。しかし、それが何で自分たちのせいなのかは、まったくわからなかった。

「ヤスさん、どうしましょう?」
「ヴィセットは、どうしたらいいと思う?」
「えっ?」 ヴィセットは少し考えて、「もう一度電話をして、事情を聞きます」と言った。
ヤスはにっこりと笑って、うなずいた。

しかし、ヴィセットが何度電話をしても、相手は出てくれなかった。
「出てくれません。しょうがないですよね?」 とヤスに聞いてみた。
「オレがしょうがないと言うと思うか?」
「・・・ じゃあ、どうしますか?」
「森社長の会社はどこだっけ?」
「静岡です」
ヤスはすぐにネットで乗換案内を調べた。
「まだ電車あるな」
「今から行くんですか?」
「うん、そうしたい。でも、今晩中にこの資料もつくらないといけない。参ったな・・・」

ヴィセットは、「自分が行ってきましょうか?」 と反射的に言ってしまった。言ったあとで、言わなければ良かったと後悔した。

ヤスは「うん」 と言って、しばらく考えていた。ヴィセットは、ヤスが「いや、行かなくていいよ」 と言ってくれるのを期待していた。
しかしヤスは「ヴィセット、よろしく頼む」 と言った。ヴィセットは心のなかで、「マジかよ」と思ったが、「はい」 と小さく返事をした。

ヴィセットは、バッグを持って事務所を飛び出した。そして、そのまま駅まで走って向かった。しかし、ヴィセットは心のなかで、「電車がなくなってしまえば、それを行けなかった言い訳にできるな」 とも思っていた。「なんでこんなことしてんだか」とクメール語でつぶやきながら、それでもヴィセットは走り続けた。

ヴィセットは、森社長のところへ、先輩の玉置に同行して何度か行ったことがある。森社長は静岡県を中心にレンタルオフィスの事業をやっている。しかし、森社長はヴィセットのことを相手にしていなかった。相談事もすべて、日本人の玉置にしていたのだ。なのでヴィセットは、あまり森社長にいいイメージがなかった。だからこそ、ヴィセットは行きたくないのだ。

ヴィセットは何とか最終の新幹線に間に合った。静岡に着き、そこからまた電車を乗り継いで、やっと森社長の会社の前までやってきた。事務所の電気はまだ煌々と灯っていた。ヴィセットはインターホンを鳴らし、ドアの前で、きをつけの姿勢で待っていた。しばらくすると、いぶかしげな顔をした森が出てきた。

「君は?」
「はい!私、株式会社フリーライフコンサルティングのヴィセットと申します!この度は、ご迷惑をおかけし誠に申し訳ございませんでした」 ヴィセットは、深々と頭を下げた。
森の顔は、驚きの表情に変わっていた。

ヴィセットは、応接室に通された。
「なぜ、来たんだ?」
社長の問いにヴィセットは、少し間をおいて
「森社長の様子がおかしかったので、とりあえず来ました」

少し沈黙が続いたあと、森はしゃべりはじめた。
「昨日、大きな売掛金がある取引先が不渡りを出した。倒産だ。うちの会社の売上の60%はそこの会社からだ。その売上が入ってこない、イコール私たちも倒産だ」

ヴィセットは、返す言葉が見つからなかった。それでも何かしゃべらなければいけないと思い、「銀行などに融資をお願いするのは、どうでしょうか?」 と、誰もが思いつきそうなことを言った。

「静岡にある銀行は、今日すべて電話をした。でも、融資の話はどこも乗れないということだった。もういいんだ。もう終わったんだ。フリーライフには、本当によくしてもらった。今回の件も、まったくフリーライフには関係ない。誰かに八つ当たりしたくて、電話をしてしまったのだ。申し訳ない。許してくれ」 と言って、森は大きなため息をついた。

ヴィセットは何も言えなかった。でも、黙っているわけにはいかなかった。このまま、森の会社を倒産させることだけは避けたいと思っていたからである。
「森社長、友達にお金を借りましょう」
「そんなこと・・・ 友達には迷惑をかけたくない」
「でも、今はそんなこと言っている場合じゃないですよ」
森は何も言わなかった。

「こういうときに助け合うのが友達。カンボジアでは、何か困ったことがあったら、みんなで助け合います。日本人だって、みんなで助け合って、経済が成長した。日本の一番の強みは"絆"。本が書いてある。僕が社長の友達なら、力になってあげたい。だから、友達に頼め」

ヴィセットは興奮して、日本語の使い方がおかしくなっていた。

「命令か」
「・・・ あっ、すみません。頼んで、ください」
森は少し笑った。そして、「そうだな、君の言う通りだな。変なプライドなんか捨てて、みんなに頼んでみるよ」
ヴィセットは、笑顔で大きくうなずいた。

森は、自分の机に戻り、携帯電話で電話をかけ始めた。
「どうも、森です。久しぶり。こんな夜遅くに申し訳ない」
森はそうやって、一人ずつ電話をしていったが、なかなかいい返事をもらうことはできなかった。森は、5人、10人と電話をかけ続けていた。

ヴィセットは落ち着かず、事務所のなかを、ウロウロしていた。

15人ぐらいに電話をかけたころだった。森のトーンが急に変わったのだ。「そうです。明日の午後2時までに必要なんです」 ヴィセットも、森の電話のやり取りに、釘づけになった。

そして、森は「はい、はい。本当にありがとうございます。本当にありがとうございます。必ず、利子を付けてお返しします。ありがとうございます」 と言った。

電話を切ったあと、森はヴィセットに対して、ガッツポーズをした。ヴィセットは「やったー」と声に出して喜び、森社長に近づいて、握手をした。

「はぁー、良かった。これで、何とか一時的には乗りきれそうだ」
「はい」
「君のおかげだよ」
「いえ、私は何もできませんでした。すみません」
「なに言ってんだ。とりあえず、何か飲もう」 と言って、森は冷蔵庫に向かった。
ヴィセットは、「社長、私はこれで失礼します」 と言った。
「何を言っているんだ。もう帰れないだろう!」
「はい。近くのホテルに泊まります」
「じゃー、送っていくよ」
「社長、明日までにやらなけらばいけないこと、たくさんありますよね? 私なら大丈夫です」
「しかし・・・」
ヴィセットは、自分のバッグを持って、「本当に良かったです。今後とも、よろしくお願いします。ありがとうございました」 と言って、事務所をあとにした。

勢いよく飛び出したはいいが、電車はもちろん動いていない。ヴィセットは明日、午前中から打ち合わせが入っていた。ホテルに泊まるか、駅で始発を待つか、どうしようかと考えていたが、まずはヤスに報告しようと携帯電話を取り出した。そのとき、目の前に停車している車から「ヴィセット!」 という声が聞こえてきた。

よく見ると車の運転席には、せいきゅんが乗っていた。
「せいきゅん!何でこんなところに?」
「たまたま通りかかったら、ヴィセットが見えたんだよ。偶然ってスゴイね」
「そんなわけ・・・」 ヴィセットはそれ以上、声にしなかった。ヴィセットの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。そして一言せいきゅんに、「お楽しみ様です!」 と言った。

あたりが明るくなってきた頃、ふたりはやっとヴィセットの自宅に到着した。ヴィセットの家の前には、なぜかヤスと玉置が立っていた。
そして、「お楽しみ様!ヴィセットよくやったな!」、「お帰り!オレの代わりに、申し訳なかった。ありがとう」 と2人が声をかけてきてくれた。そして、せいきゅんは、にっこりと微笑んで言った。

「さぁ、今日も世界が笑顔になる物語を増やすぞ!」



この事件から、ヴィセットは変わった。やっとこの会社の一員になれたと自分でも思ったのだ。そして、あれから4年たった今、3か月後には、日本を離れてカンボジア支店に行くことになっている。ヴィセットはカンボジアでも、こんな職場をつくりたいと、心底思っていた。

ヴィセットとヤスは目があって、笑った。

「カンボジア、楽しみだな」

「はい」

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